第2回「仕事の質と量とは」

「職業に貴賎なし」と言われ、世のため人のために仕事をする「人」に上下の差はありません。

でも、仕事そのものには価値があり、価値があるからこそ需要が生じ、供給とのバランスによって価格が決まります(市場の形成)。市場が形成されると、そこに供給される商品やサービスの「質」と「量」によって価格差(売上格差)が生じます。

例えば自動車が日本に入ってきた頃、需要は高くても国内の生産技術や生産体制が未熟であることから、非常に高価なものでした。オートメーション化が進み生産台数が増えると、価格はどんどん下がって一般庶民でも購入できるほどになります。さらに進むと複数の会社が製造販売するようになり、それぞれが質と量を競い合うことで同じ自動車でも価格差が生まれてきます。

つまり、価格は市場価値(需要と供給のバランス)によって決まりますが、市場内の競争(供給体制の優劣)によって価格差が生じるのです。

ここで重要なのが、市場価値を決めるのは市場(需給バランス)ですが、商品やサービスの価値(価格差・売上格差)を決めるのは提供するそれぞれの会社(の供給体制)だということです。

会社の供給体制とはそれぞれの会社の「仕事の仕方」のことであり、それが市場で評価されることで差が生じるわけですが、その評価の基準が「質」と「量」なのです。

これは最近のネット上の「安定の○○(特定の商品名や会社名)」という評価がこのことをとてもわかりやすく伝えています。質と量が安定していることはそれを購入する人に安心感を与え、購入のハードルを下げるだけでなく、ファン・常連客につながっていきます。

質と量はいずれか一方が満足されていれば良いというわけではなく、質と量が共に安定して供給されることが求められます。安定した質はわかりやすいかと思いますが、安定した量も必要です。

求めている人がいるのにすべてに提供できない、あるいは有ったり無かったり、しょっちゅう入荷待ちになるような商品は別の商品に置き換わられる理由にもなります。

会社の仕事の仕方、つまり会社が提供する商品やサービスを実際に生み出しているのは人であり、その会社で働く人たちの仕事です。会社の商品やサービスが売れるかどうかは、そこで働く人たちの仕事(の仕方)によって決まります。

では、働く人に求められる仕事の「質」と「量」とは具体的にどのようなものでしょうか。

商品やサービスの質、つまり品質には「機能的」なものと「情緒的」なものがあります。機能的な品質とは正確性や安全性、効能や効果といったその商品やサービスが持つ機能や働きにおける満足度のことです。一方情緒的な品質とは見た目の美しさや丁寧さなどに加え、最近は同じ機能でも障がいを持った方向けの設計なども情緒的な品質と言えます。

この品質を生み出しているのが働く人の「仕事の質」です。つまり人の仕事の質にも機能的なものと情緒的なものがあり、前者は技術や熟練度(知識・経験)であり、後者は主にその人が持つ感性(センス・気づき)になります。

前回お話しした通り、今後AIが進化していくと人間の仕事の機能的な部分や単なる作業はほぼAIがこなしていくことになるため、人の感性によって「問題に気づく」ことが求められます。つまり、これまで会社で求められていた仕事の質とは熟練度と感性、つまり「ミスなく丁寧」であること、量とはそれを「数多くこなす」ことでした。しかし、AIが進化するこれからの時代において「ミスなく丁寧」と「数多くこなす」というのはAIが得意とするところであり、将来的には取って代わられることが予想されます。

では、これから会社で求められる仕事の質と量とは何か。それはAIが苦手とし、人だからこそできること、つまり問題に気づき(質)、解決策を考えること(量)です。よりわかりやすく言うと、与えられたことや指示されたことを「言われた通りにキチンとこなす」という仕事の仕方だけではなく、「言われたことよりも良いものにしようと考えて」仕事をするという仕方が求められるということです。

これからの仕事は、質はより情緒的で感性が重視され、量については物理的なことよりも今以上の価値を付加させることを考える時間や気づきの量が求められていきます。

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