第1回「AIが苦手とする能力」

「人間の仕事が(AIで制御された)機械に奪われる」という話題が出たのは今からちょうど10年前の2013年。イギリスのオックスフォード大学から発表された研究論文によって、「今後AIに取って代わられる仕事」が世界中で話題となりました。

AIとはArtificial Intelligenceの略で「人工知能」のこと。コンピュータがデータを分析、推論や判断から最適な提案をしたり、課題を定義して解決あるいは学習するなど、人間の知的能力を模倣する技術のことです。簡単に言えば、人間が考えて行うことを機械がやってしまうということ。当然、人間の仕事の多くは人間が考えて行なってきたので、AIの条件に合う仕事は今後AIがやってしまう、ということです。

技術はどんどん進化していきますからAIに奪われる仕事(職種)の心配よりも、AIが苦手とする、あるいは代替させられない仕事を考えた方が良いでしょう。

AIには難しい仕事とはどのようなものかを考える前に、人間が考える場所である「脳」についてごく簡単に説明をします。

人間の脳は左右2つに分かれていて、右脳と左脳と呼ばれています。近年の研究で明らかになったのは、左脳は理性を掌り、右脳は感性を掌るということです。つまり物事を順序立てて考えるのが左脳であり、感情や情緒あるいはイメージを思い起こすのが右脳だと言われています。

おわかりだと思いますが、AIは人間の左脳が掌る理性的思考を行おうとしているわけです。

最近はAIによって生み出された小説や絵画が話題になっているので、もはやAIは右脳の領域まで踏み込んでいるのではと考える方もいるでしょう。しかし、それらもいわゆる学習、つまり情報から将来使えそうな知識を見つけるという機能によって「近いもの」を表示しているに過ぎません。

このことからもAIができないこと、苦手なことがわかります。それは「意味を理解する」ということです。もっとわかりやすく言うと、「物事の意図や目的を考える」ということです。

一番わかりやすい例は「困っている人見つけて助ける」というごく当たり前の行為で、そのうちの「困っている人を見つける」ということこそが右脳の働きであり、AIにはできないことなのです。

「助けを求めている人」とは助けを求める、つまり困っていることに対する「解決策を求める」具体的な行動であるため、問いに対する最適解を見つけるのが得意なAIの領域です。でも「困っている人」というのはその人だけが陥っている状態なので理解しようがありません。

では、私たちはどうして「困っている人を見つける」ことができるのでしょうか?

それはその人の表情や態度、行動を見て、その人に問題が起こっていることに「気づく」からです。これはつまり、表情や態度、行動の意味や意図、その人の目的を理解できるからこそであり、この「気づき」こそ人間にしかできない能力なのです。

AIが苦手とする、あるいは代替させられない仕事、それは右脳が掌る「感性」が必要とされる仕事です。

感性を感情や情緒といった感受性のことだけを捉えて、AIに代替されにくい仕事とはクリエイターやデザイナーあるいは高度な判断を要する仕事だ、という人もいます。でも、そんなことは決してありません。それどころか、仕事の本質は「問題解決」ですから、全ての職種において「困っている人を見つける」という「気づき」が無い仕事はAIに替えられます(与えられたテーマの絵を描くことはAIでできるようになる)。

つまり、AIに替えられるか否かは職種ではなく「仕事の仕方」にあり、その中でも必須なのが「気づき」だということです。

個人あるいは企業の「気づきの能力」こそがこれからのAI時代にますます求められていくことになります。

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