第2回「豊かな生き方に必要な経営者感覚」

利益とは次の仕事の原資にもなるので、会社を継続させていく上で不可欠なものです。それだけに利益が出ない仕事は注意しなければいけません。これは受注した仕事で利益が出ない、赤字だという場合だけでなく、現場で働く一人一人の仕事においても言えることです。

例えば頼まれた仕事をミスして、やり直さなければいけなくなった、ということはどこでも起こりうることですが、これは厳密に言うと「赤字の仕事」です。同じ仕事を2度やるというのは同じだけの時間を使うということですから「時間を損した」ことになります。この「時間を損した」というのは、その時間で別の仕事ができた、つまりその分だけの仕事をせずにその時間分のお給料だけが出てしまった、という意味です。これを「機会損失」と言います。

非常にシビアで「世知辛い」と思われるかもしれませんが、これは現実問題であり仕事以外の普段の生活の中でも同じことがあります。

例えばよくあるのが「忘れ物」による機会損失です。大事なものを忘れたので取りに帰ったという経験は多くの人が持っていると思います。この場合、車や電車に乗る前に気づいたら実質的な費用がかかっていないから「セーフ」と思っている人がいるかもしれませんが、忘れ物が発覚した時点で「アウト」です。機会損失とは得られるべきはずだった機会が失われたことによる損失のことであり、取りに帰るという労力に加え、かかった時間分の機会を既に失っているからです。

ここで大切なのは、仕事でも普段の生活においてもミスをしないように注意することが必要ですが、それ以上にミスをしても「まぁ、いいか」と気に留めないでいるとしたら、それが一番の問題だということです。

確かにミスは誰でもやってしまうことなので、ミスしたこと自体を責めたりクヨクヨと落ち込むのではなく、素早く切り替えることは大事です。しかし、ミスしたことで生じる機会損失について全く考えないというのは、ミスの原因がそもそもその意識にあるということが考えられますし、その場合の多くは同じようなミスを繰り返してしまいます。

普段の生活でミスが多いという人は直接的に「損していない」という考えからミスを繰り返してしまう可能性があります。それは先ほど述べたように直接的な損はしていないから問題ないと気に留めないからです。でも、その時間でできたことや関わる人にルーズな印象を与えたり、実際に時間感覚の低さから信用を失っているなど、見えないところで間接的に「機会損失」している可能性があります。

たいていの経営者はこの機会損失など見えないところの損得勘定ほど重視しています。これは見えないところの評価や見えないコストなどです。見えないところの評価とは顧客など相手が直接言わない評価、つまり信用信頼のこと。見えないコストとは先ほどの例のように、ミスをして同じ作業をやらなければいけなくなった場合のその時間分のお給料と労力、さらに機会損失のことを指します。こういった直接的に見えないけれども確実に起こっていることに対して損しているか得しているかの評価や勘定を、経営者は経営上の重要な感覚として持っています。

仕事も人生も毎日の積み重ねであり、信用信頼もその積み重ねの上に成り立っているものです。信用信頼はよく家を建てるのと同じと言われ、建てる時は少しずつ時間をかけて建てていきますが、壊れる時はあっという間に崩れてしまう。コストもたとえ1回の金額が少なくても「塵も積もれば山となる」で放っておいたら馬鹿にならない額になってしまいます。

見えないところ、つまり仕事をする上での傲慢や放漫といった人の心まで考えようとするのが経営者感覚であり、「気をつけた」丁寧な経営や生活が結果として豊かさをもたらしてくれるものなのです。

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